けもフレ経済学(9) -- まとめ
「は?たつき監督下すとか正気か!?どう考えてもアニメ大ヒットの功労者じゃねえか。カドカワは頭鉄華団かよ?」
ツイッターでは、発端となったたつき監督のツイートが2時間で20万リツイートされていった。
また一部では署名活動も始まり、耳の早いニュースサイトは記事を上げ、アニメファンは様々な活動を展開し始めた。
いわゆる炎上状態となっていった。ここではこの騒動をたつき監督降板事件(降板事件)として表記する。
(参考 ニコニコ大百科 http://dic.nicovideo.jp/a/9.25%E3%81%91%E3%82%82%E3%83%95%E3%83%AC%E4%BA%8B%E4%BB%B6)
「これだけ大騒ぎになれば、カドカワの株価は大暴落だろう!いい気味だ。株価でもみて溜飲を下げるかな」
しかし素人目線では、株価の値動きにはほとんど影響がないように見えた。
また、投資家の掲示板を見ると降板事件はあまり気にせず、むしろニコニコ動画の10月アップデート内容(niconico(く))の動向を気にするような冷静な内容が多かった。
日付 | 始値 | 高値 | 安値 | 終値 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
9月25日 | 1,395 | 1,396 | 1,362 | 1,371 | 当日。取引は15:00までなので終値は事件の影響なし |
9月26日 | 1,341 | 1,366 | 1,326 | 1,352 | 翌日 |
9月27日 | 1,347 | 1,375 | 1,332 | 1,366 | |
9月28日 | 1,379 | 1,383 | 1,362 | 1,373 | 事件前の終値まで戻している |
(出典 Yahoo!ファイナンス カドカワ(株)9468 https://stocks.finance.yahoo.co.jp/stocks/history/?code=9468.T)
「なんだこれ、こんなに大騒ぎしてるのに株価には全く影響がないのか?全く意味が分からん!」
投資家に対し筋違いの憤りを覚えるとともに、隔絶した世界を垣間見たような印象を受け、株式について強い興味が沸いた。
そこで素人ながら、降板事件と株価がどう関係しているかについて調べた。
調査内容
今回の降板事件を具体的な疑問点にどうやって還元しようかと悩んだが、以下の3点について調べることにした。
- そもそも株が下がることによって企業は損をするのか?
- 顧客が商品に不満があり抗議を行った場合、株価に影響を与えるのか?
- 降板事件により株価は下がったのか?下がってないのか?
1.そもそも株が下がることによって企業は損をするのか?
基本的に企業ではなく、株主が損をする。
(参考 man@bow http://manabow.com/qa/kabuka_hendo.html)
企業は株式を新しく発行することにより資金調達を行う。
株式市場では過去に発行された株式を株主が取引きしているのであって、株価の変動は企業の財務状況に直接影響を与えない。
株主視点では、株価が下がることは株主の資産が減ったということでもある。(キャピタルロス)
株式会社は株主のものなので、キャピタルロスが大きくなるのを避けるため株主総会で経営に介入する。
株主による介入が悪いかどうかは何とも言えないが、企業側としては経営に水を差されるのは避けたいはずである。
また、株価の下落による影響は他にもある
- 新株発行による資金調達が困難になる
- 企業買収リスクの増加
- ストックオプションが導入されているなら社員(役員)は損失を被る
カドカワはストックオプション及び、従業員向けESOPなどを行っているようだ
(参考 カドカワIR 四半期報告書 http://pdf.irpocket.com/C9468/xOcR/cFGO/NESq.pdf)
小まとめ
株価の下落で損をするのは株主。
また、企業視点でも株価の下落を手放しで喜ぶということはない。
2.顧客が商品に不満があり抗議を行った場合、株価に影響を与えるのか?
直接的にはない。業績に影響が出て初めて株価に影響があると言える。
経済のモデルにフロー循環というものがある。
このモデルでは、顧客が商品を購入する場は財・サービス市場である。
また、株主が新株を購入する場は生産要素市場である。
ただ、今回気にしている株価は、そのどちらでもなく、株主が発行済みの株の売買をする場=株式市場である。
株式市場では、顧客という登場人物は現れない。(と思うが、あまりはっきり分からなかった)
(参考図 他力本願 フロー循環 http://nomura.nagoya/?p=76)
財・サービス市場では、商品・サービスの需要供給で価格が決まる。
商品に不満がある場合は今後需要が減る方向になると考えられる。
需要供給曲線で考えると、需要が減るので、需要曲線自体が移動し、供給と均衡する点(価格)が下がる。
企業としては価格が減ることは業績が悪化することにつながる。
(参考 進研ゼミ http://chu.benesse.co.jp/qat/3519_s.html)
株式市場でも、株価は株式の需要供給の関係から決定される。
ただしこちらの需要供給は様々な要因から決まるので一概には言えない。
要因の大きな一つとして企業の業績が挙げられる。
これは株の配当金(インカムゲイン)が企業の利益を基に分配されるためだ。
業績は決算の有価証券報告書(有報)にて公開される。
そのため、決算のタイミングで株価が大きく変動することはある。
実際、カドカワは今年8月の決算にて営業利益減の報告を行い、その日は大幅に株価を下げている。
(参考 Yahooファイナンス カドカワ 9468 3カ月チャート https://stocks.finance.yahoo.co.jp/stocks/chart/?code=9468.T&ct=z&t=3m&q=c&l=off&z=m&p=m65,m130,s&a=v)
小まとめ
顧客と株価は直接の関係はない。
ただし、企業の業績を通じて間接的な関係を持っている。これによる影響は無くはないが反映はずっと遅い。
3.降板事件により株価は下がったのか?下がってないのか?
判断が難しいが、降板事件の影響は殆ど無かったように思える。
株価は様々な要因から決まるため、決定的なことは分からないが、関連していそうな所を調べた。
日本経済新聞でのニュース
事件の翌日に、日経に取り上げられた内容では前日比45円安(3.3%)まで下げたと発表された。
しかし、冒頭に示した通り、2日後には元値に戻している。
(参考 日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXLASFL26HTI_W7A920C1000000/)
株価チャートの動き
株価チャートの75日移動平均線を見ると、減少トレンドとなっている。
しかしこれは降板事件以前よりの継続であり、降板事件の影響は不明である。
(参考 みんなの株式 9468 http://minkabu.jp/stock/9468/chart)
自社株買いの影響
8月よりカドカワは自社株買いを行っている。
自社株買いは、流通している株が減る=株価が上がるという性質上、株価の下支えとなる。
しかし降板事件直後~9/30までは、自己株式の取得を一時的に止めていたようで、その期間では株価は堅調な動きを見せている。
(参考 有報速報 カドカワ株式会社自己株券買付状況報告書 https://toushi.kankei.me/c/19535/d/S100BG4E)
投資家の動き
カドカワの株式は機関投資家の保有割合が多いため、そもそもニュースなどによる影響を受けにくいという意見があった。
株主比率を元に、この意見を調べた。
6月の有報によると株主比率は以下の通りである。
区分 | 所得株式数の割合(%) |
---|---|
金融機関・金融取引業者 | 27.43 |
法人 | 18.45 |
外国 | 25.07 |
個人 | 29.06 |
(出典 カドカワ IR 有価証券報告書 3月期 http://pdf.irpocket.com/C9468/jwgy/WV9L/NWVj.pdf)
個人から筆頭株主の川上氏の8.02(%)と自己株式分1.83(%)を引くと個人の株主比率は19.21(%)となる。
またこの有報以降の大きな変化点として、自社株買いを進めている点、外国法人(ダルトン・インベストメンツ・LLC)が7.07%取得し筆頭株主第2位になっている点より、個人投資家の占める割合はさらに低くなっていると考えられる。
長期投資目的の金融機関や、業績・各種指標を基にした外国人投資家はニュースによる影響を受けにくいとした場合、
降板事件で影響があるのは個人投資家部分のみで多くとも20(%)未満となる。
個人投資家全体が失望するということはまずないので、最大でもその半数程度(10%未満)として考えた場合、
その人たちが仮に株式を投げ売ったとしても、株価の暴落を期待するには若干弱い数字であると言える。
小まとめ
降板事件によって株価が下がったとは言えない。
今回調べられなかったところ
終わりに
ただのアニメファンとして分かったことは以下2点だ。
- 株価は株式を売買している人が損したり得したりするので、ただのアニメファンが株価で煽りあったりしても(ほとんど)しょうがない
- 業績に直接影響の出るプレミアム会員解約はものすごく堪えそう…今度の決算のタイミングで株価が大きく変動するかもしれない
阿部マリオに感動してた個人としては、これからは政府の追い風で日本のコンテンツ大国化が始まるんだぜ!と勝手に思っていたけれど、色々調べていくうちにCoolJapan政策の最悪な実態(http://wedge.ismedia.jp/articles/-/8306)やコンテンツビジネスが実は衰退しているとの分析(https://www.mizuhobank.co.jp/corporate/bizinfo/industry/sangyou/m1048.html)なんかがあったりで、心底ガッカリしてしまった。
それでも国内の既存ビジネスモデルが弱体化している中で、カドカワ(川上氏)は積極的に手を打っているように思う。
ピンチはチャンスとして、降板事件については業界・顧客すべてが最終的にプラスで解決することを願うばかりだ。
また今回の事件を踏まえて、今後キラーコンテンツキラーと呼ばれるような行為が是正されていくことに期待したい。